豊洲町会と豊洲商友会協同組合は2018年9月11日、東京都庁を訪れ、東京都中央卸売市場長に対して市場移転に関する要望書を提出しました。
その日のうちにニュース番組やニュースサイトが報じたので、すでに内容をご存知の方も多いでしょう。
当サイトでは豊洲が都へ要望書を提出することになった背景や豊洲の街が豊洲市場についてどのように思っているのか、取材を通じて入手した内容とともに豊洲住民としての気持ちをお伝えしていこうと思います。
風評で傷ついた豊洲と豊洲の子どもたち
豊洲には風評による被害が少なからず存在しています。土壌汚染のあった場所は東京ガスの工場跡地、つまり現在の豊洲市場用地に限定されているにもかかわらず、関係のない豊洲全体の土地が汚染されているんだという間違った認識が広まっています。
これまで小池都知事や一部の政治家、マスコミが豊洲市場の話題を取り上げる際に、「豊洲の汚染」「豊洲問題」などと“市場”を省略した表現をしていたのを皆さんお気づきになったかもしれません。“豊洲市場”と“豊洲”では対象の範囲が違いすぎます。また、移転反対派の一部の方が豊洲のことを「毒洲」「花も咲かない場所」などと言い放った事実もあります。
豊洲町会の小安勤会長はマスコミや都を前にして、こういった配慮を欠いた表現や心無い発言がきっかけとなって風評が広まり、豊洲の子どもが他の地域の子どもにイジメられた例を紹介しました。住民のなかにはご実家から電話がかかってきて「お前(豊洲に住んでて)大丈夫なのか?」と言われた例もあったそうです。
豊洲は若いファミリー層がとても多く住んでいる街で、乳幼児や小学生がたくさんいます。子どもにとってはこの豊洲が故郷になるんです。子どもは自分が悪くないのに故郷が悪く言われイジメられるわけですから、為す術がなく耐え難い苦痛なはずです。それに、自分の故郷や出身地をバカされて嫌な気持ちになるのは大人だって同じでしょう。
実際のところ、土壌汚染はどうなったのか。当然、法律に則って十分な土壌汚染対策工事が実施されました。工事内容はWebサイトで公開されています。つまり、とっくに豊洲市場の建っている場所は安全なんです。怪我が完治して元気になったら、それはもう怪我しているとは言いません。豊洲市場をいつまでも汚染された土地と呼ぶのはおかしいわけです。
また、豊洲市場では地下水の汚染について問題視されることがありますが、豊洲市場は地下水を一切使いません。魚や売り場を洗う際にも、飲食店でも、飲み水にも、地下水はまったく使わないので必要ないんです。使わないものを心配することこそ無駄で、もはや議論も不要です。
都に4項目の要望書を提出
配慮を欠いた表現や差別的な声によって汚された豊洲のイメージを取り戻すべく、都に対応を求めたのが今回の要望書です。
要望書の要点をまとめておきます。豊洲が市場移転を受け入れる条件として都と約束した3つの項目「安全安心で豊洲市場と豊洲のブランドイメージの向上」「にぎわい施策」「交通対策」に加え、「地域と市場の共生」の全4項目です。
- 安全安心で豊洲市場と豊洲のブランドイメージの向上
- にぎわい施策
- 交通対策
- 地域と市場の共生
市場の皆さんと一緒に良くしていきたい
市場の移転を1ヵ月後に控えたこの日、囲み取材の場に立った小安会長は「(市場が)開場する前に本当の声を届けたかったんです。新しい市場と地元が共生できるように協議体を作って、より良い市場になるよう都と一緒にまちづくりをしていきたいです」と語りました。
街としては都や江東区とともに豊洲市場の安全を訴えながら、豊洲の住民や市場の皆さんと一緒になって世界一の市場を良いものにしていきたい考え。
「安全安心で豊洲市場と豊洲のブランドイメージの向上」「にぎわい施策」「交通対策」の3つの要望を形にし、防犯やトラブルへの対処、にぎわいを創出する施策などをよりスムーズに実施していくためにも、都が主体となって、地元地域と市場関係者、地元自治体との協議体を作る。これが今回の要望書の大きなポイントです。
交通対策の中には地下鉄8号線に関する要望も含まれています。要するに有楽町線の豊洲〜住吉間の延伸のことで、鉄道での移動が不便な東京都の東エリアと湾岸間において地下鉄8号線の延伸は長年の悲願でもあります。実現すれば東京東エリアから豊洲市場へのアクセス向上にもつながります。南北が移動しやすくなれば、新たにさまざまなチャンスもあるでしょう。早急に実現してほしいです。
また、取材の場を後にしてから帰り際に小安会長がおっしゃっていた言葉が印象的でした。
「いつか最終的に、豊洲に移転して良かったなと思ってもらえるような街だったり市場にしていかないといけない。街として協力したいし、市場のみなさんと一緒に豊洲と豊洲市場を良くしていきたいです。」
ルールの徹底をお願いしたい
同じく小安会長とともに要望書を提出した豊洲商友会協同組合の渡辺哲三理事長へは筆者が独自に取材取材を実施。コメントをいただきました。
「これまで豊洲が抱えてきた想いを開場する前に都へ伝えて、スッキリして開場を迎えたかった。千客万来の暫定施設はまだわからないことが多いですが、ぜひ市場由来の本来あるべき物が並ぶような商店を誘致してほしい」と語り、魚や青果などを一般の人が気軽に購入できるよう豊洲市場ならではの賑わい施設を望む姿勢を示しました。
ただ残念なことに、市場の開場は良いことばかりではありません。交通量の増加や騒音、振動といった、住民にとっての不安要素も数多くあります。
「夜中に冷凍トラックがたくさん来るのだから、地元の人たちがかなりの迷惑をかぶるのは間違いありません。路上駐車についても心配だし、(交通量の増加で)子どもたちの交通事故も心配。築地市場ではどうだったかわからないけど、豊洲市場ではルールを守ってほしい。また、トラックが生活道路には入らないよう、警察だけでなく市場当局へもパトロールをお願いしました」
豊洲市場は築地市場よりも駐車場の数が多く用意されているものの、それでも買い付け人の利用する駐車場は数が足りないとみられています。渡辺理事長がご指摘するように、路上駐車が発生する可能性は高そうです。
しかしながら、いくら駐車場が空いていないからと言って路上駐車が許されるわけではありません。路上駐車は渋滞や事故などさらなる迷惑行為を生み出します。きちんとルールを守ってほしいです。
加えて、江東区へも対応をお願いする場面もありました。
「江東区は世界一の市場が区内にあるっていうのを積極的にアピールする取り組みが必要だと思います。たとえば、(開放型市場と異なり)外気を遮断して温度管理を徹底できる施設なのだから、少なくともこれまで以上に良い状態で商品を提供できるメリットを伝えていくべき」と、築地市場との違いを強調して、豊洲市場の良さを全国あるいは世界へ発信するよう江東区に求めたいとしました。
協議体を設置し、市場とともに良いまちづくりを
今回、豊洲が東京都へ要望書を提出した背景と、小安会長と渡辺理事長が記者を前に語ったコメントに加え、その日の夜に筆者が直接お二人からお聞きしたメッセージをまとめてお伝えしました。
ルールはきちんと守り、都も区も豊洲も豊洲市場も共に手を取り合って、良いまちづくりをしていこうじゃないかという想いが伝わってきました。すべては街のため。このためにずっと準備を重ねてきたんだそうです。
協議体は遅くとも11月には立ち上がる予定。要望が形になる日はそう遠くないはずです。