築地市場は2018年10月11日に豊洲へ移転し、豊洲市場が開場します。東京都は移転に伴って行われる引越し作業や築地市場の解体工事に関する「平成30年度 築地市場解体工事説明会」を7月17日、中央区役所会議室にて開催しました。
築地市場ができたのは今から80年以上も前の1935年(昭和10年)。当然のごとく建物には発がん性物質のアスベストが使われています。除去・対策は行われてきましたが、それでも2017年の時点で延べ床面積の約4万7000平方メートルでアスベストが残っていることが判明(日経新聞の記事)。
解体となればそのアスベストが表に出てきます。もちろん、解体工事の際には最新の技術でアスベストの飛散を防止するはずですが、あの広大な敷地でかつ短期間のうちに無事アスベストを防ぎながら解体できるのか不安です。
築地市場から豊洲の街は直線距離にして3km程度と非常に近い距離にあります。解体工事で出てくるアスベストが風に乗り、この湾岸エリアへも飛んでくる可能性を懸念した筆者は一体どの程度の影響があるのかを知りたくて、説明会に参加してきました。
小さい子どもの多い豊洲ですから、もし本当にアスベストが飛んでくるのなら親御さんは心配で仕方がないでしょう。当然、お隣の銀座や勝どき、月島、晴海といった周辺地域の皆さんにとってもただ事ではありません。築地周辺では神経を尖られている方が多いのに、そのすぐ近くの湾岸エリアではこういった危険性を知らされていないのが現状です。
説明会には市場関係者のほか築地近隣の住民とみられる方も参加し、会議室はほぼ満席に。250名前後の参加者がいたと思います。
当記事では今回の説明会に参加できなかった人のために、説明内容をわかりやすいように端的にまとめました。また、後半では説明会のあり方について筆者が感じたことを書いておくことにします。
築地市場の解体工事に伴う注意ポイント
築地市場は豊洲市場へ移転する10月11日、その日から解体工事が開始となります。その1週間後に築地市場は完全に閉鎖。解体工事は2020年2月28日まで行われる予定です。
解体が始まると周囲への影響がいろいろ生じるとみられています。たとえば、以下の点です。
- アスベストの飛散
- 築地市場に生息する大量のねずみが周辺地域へ逃げる
- 工事車両の往来による交通被害
今回、当記事では説明会のすべてをレポートするのではなく、いくつか要点を絞ってレポートすることにします。
この記事を読んでくださっている読者様の多くが湾岸エリアにお住まいの人と仮定し、都からの説明のあった情報のなかから湾岸エリアに少しでも影響するであろう上記の3つの点に絞って解説していきます。
アスベスト
アスベストは飛散する可能性(発じん性)の最も高いものをレベル1とし、レベル1〜3に区分されます。
厄介なのがレベル1に区分される、吹付け石綿類と呼ばれるアスベスト含有建材です。解体工事の際にはレベル1の対象材について負圧除塵装置で密閉し、飛散抑制剤を散布したのち、工具で石綿を除去するなどといった方法で処理される計画になっています。飛散量については粉塵計を用いてリアルタイムで監視するとのこと。
また、レベル2、レベル3の対処法についても説明がありました。
しかし、残念だったのはどの地域やどの範囲までどのような影響があるのかといった言及がなかったこと。処理計画の説明にとどまり、「大丈夫」と受け取るには情報が足りないと感じました。もし、周辺地域へはまったく被害が及ばないから言及しなかったのであれば、それならそうと、「影響はない」とハッキリ言ってほしかったです。
浮遊粉塵の濃度については、測定し、測定結果は現場の掲示板にて掲示するとのこと。空気中を飛ぶアスベストの量はこの数値でわかるようです。
ねずみ対策
アスベスト対策も重要ですが、ねずみ対策については特に築地市場場外市場の方が気にしていらっしゃいました。
筆者はねずみの生態や駆除方法に明るくないため詳しくはわかりませんでしたが、まず都と業界団体が合同で、すでに2018年5月に事前対策を行ったとのこと。具体的には粘着シート、殺鼠剤、捕りカゴ等を用いて一斉駆除を実施。700匹近いねずみを駆除したと説明していました。加えて、今後8月にも同様の内容で一斉駆除を行います。
また、専門業者との委託契約を結んだのち、場内全体について8月末までに生息状況を調査し、外周部を対象に9月〜11月にかけて同じく一斉駆除を実施予定。
さらにはクマネズミが多く生息する青果部の敷地・建物全体を対象に8月末までに調査、11月まで段階的に駆除を実施していくとのこと。
ただ、うまくいかなければねずみは周辺地域に逃げ出すおそれがあります。場外市場にお店を構える聴衆の方からは「ねずみは銀座からだって来てる。銀座から来るってことは、ここからも銀座へ行くんだよ。こんな短期間では完全に駆除できるはずはない」と、周りに影響を及ぼすリスクと、雑な駆除方法、対策期間の短さを指摘していました。
推測レベルでもいいので、現在の築地市場にはおよそ何匹のねずみが生息しているのか。非常に気になりました。また、この方法で100%ねずみを駆除できるのか、もし不可能なから何%くらいは駆除できると想定しているのかも気になったところです。
解体工事の実施時間
解体工事のトラックや作業時間について嫌な点がありました。
工事が始まれば、廃棄物を運ぶトラックや工事車両が多数通ることになります。新大橋通り、晴海通り、環状2号線を使用するとのこと。工事の実施時間は8時〜18時を予定。この朝8時から、という開始時間を指摘する声がありました。
「築地市場の周辺には小学校があり、スクールゾーンにもなっているのに朝8時から工事するのはおかしい、9時からにするべき」といった意見です。
確かに、解体工事が始まれば1年半ほどは工事車両やトラックが多く通るでしょうから、そこを使って登下校するお子さんに万が一のことがあったら大変です。
それこそ、東京都が提唱している通勤時間をズラす「時差Biz」を工事現場に導入し、解体作業を1時間後ろにズラすのが良いのではないでしょうか。
豊洲への引越し作業 晴海通りを600台が通る(事前引越)
築地市場の豊洲への移転に伴う引越し作業について説明がありました。引越しには①事前引越、②本引越、といった2段階にわけて行います。
①事前引越とは築地市場の営業中でもできることは先に済ませておこうというもの。②本引越は築地市場の営業を終えた10月6日から行い、環状2号線を使用して24時間体制での引越し作業となります。
気になったのは①事前引越です。事前引越は晴海通りなどの公道を使用するとのこと。2tトラックで約600台に相当する車両が晴海通りを往来します。それも7時〜20時までです。
なぜ、①事前引越で環状2号線を使えないのか。とても疑問に感じました。築地市場からまっすぐ豊洲市場へ行ける環状2号線を使った方がスムーズに引越しできると誰もが思うことでしょう。トラックの数を減らせるので渋滞が起こりませんし、住民も安全です。なぜ、遠回りとなる晴海通りを通るのでしょうか。
説明側はどんな情報を欲しくて参加者が来るか想像してほしい
今回開催された「平成30年度 築地市場解体工事説明会」は蓋を開けてみれば、業者や住民にとって欲しい情報のない、内容の薄い説明会でした。
時間にして1時間30分という説明時間(当初の予定)にしては、引っ越しスケジュール、ねずみの駆除、アスベスト対策、環状2号線の工事、東京2020大会の駐車場建設など、内容が多岐にわたり、ひとつひとつの説明が薄かったと言わざるを得ません。
「周辺地域にはこういった影響があります」「こう注意してください」といったメッセージはなく、各工事や作業工程を淡々と説明するだけでした。それでは聴衆側からも「準備不足だ」「出すべき資料を用意してこい」といった罵声が多数出るのも仕方がないかなと思います。
聞く姿勢がなく、大人げない聴衆は他の人の迷惑
しかしながら、一部聴衆のマナーの悪さもまた大きく印象に残りました。
都の担当者が説明をしている最中に「小池都知事を連れてこい」「築地は移転しません」と怒鳴り、最初から説明を聞く態度ではなかった複数の人がいたのです。罵声の位置と拍手の数からすると人数はそこまで多くはありませんでしたが、非常に情けないです。
ようやく行われた説明会なのに、いい歳をした大人の身勝手な行動のせいで、純粋に説明を聞きに来た我々のような多くの人の時間が無駄に使われてしまいました。ただでさえ都からの情報は少ないのに、一部の移転反対派の方たちによってさらに情報を削られた形です。
50歳、60歳を超えたいい大人が、落ち着いて話を聞けないだなんて、まるで大きな子どものようで見てるこちらが恥ずかしくなりました。それに、きちんと説明を聞いてからでないと質問もできないでしょう。聞く姿勢がないのなら会場から出て行ってほしかった。
ちなみにこの日の説明会は19時からスタートし、20時30分に終わるはずでした。都の説明時間は前半の55分。質疑応答の時間は最終的に22時ごろまで延長し、合計2時間ほどになりました。
誰もが知ってる巨大プロジェクトだからこそより慎重になるべき
今回の説明会では、築地市場の解体工事は筆者が思っていた以上に慎重になって進めないといけないと知れたのが唯一の収穫でした。
このような説明会は1回の開催ですべてを広く浅く説明するのではなく、2回、3回にわたって開催してほしいです。たとえば、今回は引越しについて、次回はアスベストの話、その次はねずみ対策、といったようにテーマを絞って細かく説明していただく形が良いと思いました。
築地市場で働く方は移転まで3ヵ月を切り、引越しに向けて準備をしている方もたくさんいらっしゃることでしょう。ピリピリしている時期にわざわざ時間を割いて参加した説明会がこんなにも残念な内容だったのですからイラ立つ気持ちは十分わかります。また、場外で働く方や周辺住民さんも解体工事がどの程度影響を及ぼすのかを聞けずに、より不安が増したのではないでしょうか。
一方、東京都の担当者さんや職員さんは心身ともにたいへんお疲れのことかと思います。ただ、それはこの2年振り回された築地市場の方々も同じくらい疲弊しているはずです。ぜひ、移転や解体工事について皆が一体どんな情報がほしいのかをリサーチして、満足できるデータを用意していただき、それから次回の説明会を開催していただけるとたいへんありがたいです。よろしくお願いいたします。
説明する側、説明を受ける側、どちらも歩み寄る姿勢が大切だなと思わされた説明会でした。今しばらく大変な期間が続きますが、みんながみんな大変です。どうか無事にトラブルなく未来を迎えられることを祈っています。