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特別企画:豊洲と有明の10年を見てきたマンション管理組合・自治会のリーダーが語る

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湾岸エリアにとって大きな節目となるはずだった2020年夏。新型コロナウイルスの影響で東京オリンピック・パラリンピックは1年の延期が決定しました。これまでも延期とか中止とか幾度となく外部要因に翻弄されてきた湾岸エリアは、そのたびに底力を発揮し、さらなる発展をしてきた不思議なエリアでもあります。

2020年7月。豊洲と有明の今までとこれからをテーマに対談する場を取材しました。

お話を伺ったのは、アーバンドックパークシティ豊洲で現自治会会長の浅見純一郎さん(以下、浅見)と、ブリリアマーレ有明の管理組合理事長と有明地区の自治会長を長年務めてこられた(現在はともに退任)星川太輔さん(以下、星川)。

マンション管理組合と自治会は住んでいるマンションの維持管理と住民同士のコミュニケーションを図るうえで重要な存在です。マンションで暮らす私たちも知らず知らずのうちにお世話になっていることでしょう。

湾岸エリアでそれぞれのマンション住民を支える大事な役割を務めてきたお二人ですが、はたしてどんな想いで今までやってこられたのか。対談の現場にお邪魔したところ、苦労話や面白いお話が聞けて非常に興味深いものとなりました。

許可を得てその様子を記事にさせていただきましたので、ぜひ皆さまにもご覧いただきたいと思います。

なお、対談中は常時マスク着用、距離を取って行われました。

まずは自己紹介から

星川
星川太輔といいます。有明に来たのが2008年で、ブリリアマーレ有明ができたときに入居しました。
最初はマンション管理組合とか住民総会にはまったく関心がなかったんですよ。3期からマンション管理組合の役員になり、4期に副理事長、5〜8期に理事長、9期に副理事長を務めまして、その過程で自治体の立ち上げも含めてやってたんです。
また、マンション自治会は1つのマンションにつき1つが一般的ですが、当時の有明は4つのマンションで自治会は1つだけでした。そんななか、自治会の立ち上げ(前身の有明マンション連合協議会)からと自治会が始まってからの合計5年、会長を務めました。有明を良くしていきたいなと思ってやってきました。

(ブリリアマーレ有明で自治会長を務めた星川太輔さん)

 

浅見
浅見です。2003年ごろから豊洲に住んでいて、今はららぽーと豊洲の隣にあるパークシティ豊洲に住んでいます。
マンションができた当初から自治会を作るというアナウンスがあり、面白そうだなと思って手を挙げたのが自治会に入ったきっかけです。最初は副会長をやって、4年めから会長に。その後、一度副会長に戻ったけど今また会長をやっています。
なんやかんや10年くらいマンションの自治会と、豊洲北小学校のPTA会長を6年やっています。出身が埼玉なので地縁がなくて江東区ともまったくつながりはないんですけど、なぜか十年ぐらい江東区でいろいろやらせていただいています。

(アーバンドックパークシティ豊洲で現自治会会長の浅見純一郎さん)

とよすと
とよすとです。今日は取材ということでお邪魔しています。(引越し先を決める際に)映画館と水辺のある街を絶対条件にしていて、以前に豊洲へ遊びに来たときに気に入り、豊洲に住むことを決めました。今は豊洲の良さや湾岸エリアの良さを伝えたいのと、街をもっと良くしたいなという想いで「とよすと」を続けています。

星川
そういえば、どうして「とよすと」なんですか?

とよすと
よく聞かれます(笑)「豊洲 プラス 〜」「with 〜」「and 〜」みたいな。「豊洲と私」とか「豊洲とあなた」とか。そういう意味でこのタイトルにしたんです。妻が名付け親です。

浅見
舛添さんのときに「&TOKYO」ってありましたね。語呂としてもいいですよね。

星川
すごくいいタイトルだと思います!

浅見
じゃあ、有明で「ありすと」も(笑)

星川
なんか違うな!

要望はみんなのメリットを明確にすると実現させやすい

浅見
星川さんは東京都に掛け合って有明のバスを延ばしたんですよね?

星川
延ばしたというか、僕らがやったのは東京駅丸の内南口行きバス(都05-2系統)の本数を増やしました。
結果どこまで僕らの影響があったかわからないけど、当時は各マンションでアンケートを取って地域の総意として依頼を出しました。そういうことを街としてやったのはあれが初めて。
どこまで功を奏したのかわからないけど本数は増えたので、効果あるね!と。住民含めてそういう感覚になったのは良いことでした。

(東京駅丸の内南口に停車する「都05-2」系統のバス)
 

浅見
日経にも載ってましたね。あと、海岸を作るとか作らないとかは?

星川
有明親水海浜公園っていう都立公園がありまして、東京都の公園業務をしている人たちから相談をもらい、この公園は都立公園なんだけど地域の住民さんと一緒に作っていくようなプロセスを取りたいと。そこで我々の意見も聞いてもらいました。まだ完成してないので今後も楽しみで、砂浜もできるかもしれません。また、江東区に有明地区初の遊具付き公園を作ってもらいました。正式には公園っていうか、遊び場ですが。

浅見
公園じゃないんだ。

星川
公園って言っちゃいけない何かあるんでしょうね、遊び場。
有明には遊具付き公園がないんです。たぶん、今もないんじゃないですかね。
結局、行政の間に入っちゃったんですよ。公園を作るのは市区町村の役割。でも、有明は江東区の土地があまりなく、余ってるのはほとんど都の土地なんです。都に相談行くと、それは区に聞いてくれって言われて、区に相談へ行くと、土地がないんだよと言われる。それでぐるぐる回っちゃって。

浅見
珍しいタイプのぐるぐるだね!区だと区の中でぐるぐる回ることはあるけど、区→都→区→都・・・なのか。

とよすと
よく、上に聞いてくれとか例がありますが、上に言ったら下に聞いてくれって(笑)

星川
下に聞いても結局は上に聞いてくれって。もう何度行き来したことか!
結果としては、区に作ってもらったんですけど、1年くらいかかっちゃいました。街づくりのプロセスを学べましたけどね。
行政と住民と政治家のいい意味での三角関係の連携が上手くできればいいけど、みんなにとってメリットがないと。なかなか難しいですよ。
案件レベルにもよるんでしょうけど、僕ら住民クラスの話だったら政党はそんなに関係なく、どっちかというと個人ベース。区議だろうが都議だろうが国会議員だろうが、政治家は本当に動いてくれるときは本当に動いてくれるし、口ばかりでまったく動いてくれないときは動いてくれないし。結局は、お互いにメリットが必要なんですよね。

浅見
党によっても異なるところがありそうですね。政治家と行政とっていう絡みはよくわからない部分もあるし、進んじゃうところもあるし。

実現できることって意外と多い!

とよすと
そもそもなんですが、自分の住んでるマンションの周囲にあれが欲しいとかこれを解決してほしいと思ったとき、住民はその要望をまずどこへ伝えるのが良いんですか?

星川
ん〜。そうですね。基本は区になるんじゃないですか。

とよすと
連絡方法とか窓口を知りたい人ってきっと多いだろうと思っていて。
クレーマーもたくさんいるじゃないですか。そういう人たちってクレームを言うパワーがあるなら、要望を伝えるパワーもあると思うんです。伝える手段がもっとわかりやすければ、住民は要望を投げかけやすくなるんじゃないでしょうか。

星川
要望を聞き入れてくれるかどうかは別ですが、区に電話なりメールなりすれば話は聞いてくれますよ。

(ブリリアマーレ有明)

浅見
自治会をやっていると知ってる行政マンが増えます。行政の人の立場からみても、よくわからないクレーマーを相手にするよりも、知ってる人から言われた方がやりやすい点もありますよね。
そもそも、自治会は街の代表でもあるので自治会から(行政へ)話を持っていくと伝えやすいかもしれません。

星川
住んでいる方が思っているよりも実現できることって実は多いんです。意外にできる!
共通のゴールに向かって、お金じゃなく各方面のメリットを考えてあげつつ、しっかり組み立ててあげるとグルッと回る、っていうのは理屈としてはあるかもしれないですね。
完全ボランティアなんで、エネルギーはものすごい必要だけど(笑)

浅見
行政を動かすには行政マンと議員さんが相反する意見を言ってると前に進まないんです。議員でも得意、不得意がありますしね。豊洲の場合はそこにまた企業が入ってくるんで、なかなか見えない。
ディベロッパーだったり地権者だったりそれぞれの思惑があるのは当然ですが、企業と行政と住民と議員とが絡んでくると複雑ですね。
行政は住民だけでなく企業の顔色を見てる。数年前、警察や行政に頼んでパークシティ豊洲の前に横断歩道を作ったんですけど、ららぽーとと一緒になって横断歩道を作る要望を出すことで、スムーズにいったという例があります。

(アーバンドック パークシティ豊洲)

議員やった方がいいと言われる

星川
有明を良くしたいと思っているんですよ。今も。でも、有明には議員がいなんですね。
そうそう。「議員を目指してるからいろいろやってるんでしょ?」と言われることはありますよね。その思いはないんですが、逆に、あったとしても活動すること自体は悪いことじゃないし。自治会長やって議員になるのは普通のストーリーとして当たり前なので、その言い方にカチンとくることはありますね。
でも、有明を良くしようと思ったら区議会議員も重要ですがもっというと都議会議員の影響力はとても大きいと思います。(先ほどの土地の話にあったとおり)有明は区より都の影響度の方が大きいんで。

浅見
私もよく言われるのが「なんで自分の時間を費やしてるんだ」と。星川さんと同じように周りから「議員になりたいの?」とちょこちょこ言われますね(笑)少なくともこの先数年はおとなしくします。
議員になると、やれないことも出てきますね。

星川
確かに今は住民だからこそ気軽に議員さんと連絡できるってありますよね。もし自分が区議会議員になったら都議会議員にやれそれと連絡するのって難しくなりますよね。今の立場はありとあらゆるところに連絡できる自由、というか良さはあります。
さっきの「どうして自治会長やってるんだ」の答えですが、やっぱり面白いんですよ。
もともとその立場になったことある人って少ないじゃないですか。だから外から見たら多少うがって見られてしまうこともあるでしょうね。共感してくれる人があまり多くないのかもしれません。やってる側としては難しいことはたくさんありますが、とてもやりがいのあるボランティアだと思います。この経験はお金を出して買えるものではないですね。まさにプライスレスです(笑)

この10年で変わった豊洲と有明のイメージ、そして将来

浅見
10年くらい住んでる側の感覚なんですけど、有明の人は都会っぽいイメージ、豊洲はファミリーって感じがありますね。

星川
そうかなぁ?豊洲は街としては洗練されてるから!

浅見
区長を呼んでの話し合いが行われたとき、有明の方が「豊洲ばかりああいうのができて有明にはないんですか」といきなり直談判されていて、有明ってすげぇ〜なって思いましたね。田中正造か!と。なかなか突破力がありましたね。

星川
豊洲はワンランク上だなって。勝手に思ってるだけですけど、有明はド真ん中から離れていて、ちょっと静かで。ただ、これからは変わっていくと思うけど。東京オリンピックとかで本当にそうなるかわからないけど、住民はそんな可能性と期待感を持ちながら住んでますね。

浅見
有明の方がオシャレで、時代の感覚に研ぎ澄まされてる感じ。豊洲に住んでる人は比較的堅くて、大手企業とか国家公務員とか。子供のために北小に通わせてみんなダブルインカムで頑張って、給料が子供の塾代で消えていく。

星川
浅見さんが言うように、豊洲はコンサバ、有明はアグレッシブ、という捉え方が僕もフィットするかもしれないな。

浅見
我々が住み始めたときは「よくあんな埋立地に住むわね」と言われ続けてきたわけじゃないですか。でも、ここ10年くらい街の住民のイメージはそんな感じ。

星川
有明はほんとオリンピック次第だし、5年でどうなるかですよね。

浅見
豊洲もすごく変わったので、有明も大きく変わるかもしれないし、どう変わるか想像がつかない。仮にオリンピックが開催されなかったとしても、そこから何を作り出すのが勝負でそのほうが面白いかもしれないね。

星川
有明の体操(有明体操競技場)とBMX(有明アーバンスポーツパーク)の土地はレガシーエリアとして作ろうと話し合ってるけど、結局開催されなかったらレガシーもクソもないので、あそこにマンションが建って終わるのか、そうじゃないものができるのかで、街のブランドとか大きく変わってくると思うなぁ。いろいろな意味でプラスもマイナスもリスクがあります。

浅見
豊洲のバディ(バディスポーツ幼稚園)とか結婚式場(アニヴェルセル豊洲)とかあそこは定借なので変わるんですよ。私の想像もあるけど、本来はオフィスビルができる計画だったと思います。
それを2008年のリーマンショックのせいでオフィスビルじゃなく低層のああいう形にしたことで、子どもたちや地方からいろいろな人で賑わうようになったのは怪我の功名で、良い方に転んだと。
豊洲は民間のIHI、有明は東京都がやってたり。そこらへんがどう考えてるかだよね。住民としてはそこに寄与できたらいいですよね。

(閉館が決まっているアニヴェルセル豊洲)

星川
(有明の)あの土地は港湾局が持ってるんだけど、港湾局とオリパラ準備局とで意向が違う。どっちがその土地の活用のハンドリングを握るかでガラッと変わるでしょうね。埋め立てたのは港湾局だから港湾局としては先行投資を回収したいはず。
オリンピックレガシーってのがあるのでスポーツ的な施設にしようという動きではあるけど、もし開催がなかったらわかんない!

浅見
もとを正せば、(1996年に東京臨海副都心で予定されていた)都市博がなかったからこそ今がある、っていう考え方もできるので、ほんと何があるかわからない(笑)まさかオリンピックが延期になるって思いもしませんでしたからね。湾岸エリアは時代に振り回されている感じはありますよね。

星川
時代とともに生きているので、だからこそ住民も良い意味で敏感になってる。自分たちがそこに寄与しているのは何となくあって、それは良いことなんだろうなと。

浅見
ある程度、街として固まっちゃったので個人的にはつまらなくなってるかも。もう土地ないし!

星川
毎年、ブリリアマーレでは住民にアンケート取ってるんですよ。すると、毎年5%くらいの人が入れ替わってるのがわかりました。すると、10年経てば住民の半分が入れ替わるわけですよ。
入居を決めた理由の多くは「眺望の良さ」とかあるんだけど、「今後の開発に期待」って答える人がめちゃくちゃ多いんです。だから、一緒に街を作っていくという感覚を持っている人が多いのかもしれない。

浅見
有明ガーデンができてどう思います?

星川
人の流れがまだそれほどないので、あれがもっと他の地区の人が来て人の流れが変わると雰囲気も変わるかなと。まだ街が変わった実感はないですね。でも、とにかく歓迎することではあります。
オリンピックがあってもなくて、住民が受け身じゃなく主体的にこの街をこうしていきたいと積極的に語りかけできるような街、体制になったらいいですね。

浅見
いろいろまだ話したいことはたくさんありますが、お時間ということでここまでにしたいと思います。ありがとうございました。

(対談終了)

対談を終えて

この日、星川さんは仕事の合間に駆けつけ、オンライン会議の時間までの参加という多忙なスケジュールでした。浅見さんもこの対談の後にすぐミーティングの予定が入っていたりと、お二人とも本当に忙しい方です。

筆者は湾岸エリア、特に豊洲が大好きです。今や豊洲も有明も世間から注目される街へと発展しました。湾岸エリアは都内でも屈指の住みやすい場所に間違いありません。

ただ、誰も行動しなかったら豊洲は今のように発展しなかったでしょうし、有明はここまで注目される街になっていなかったかもしれません。

街を良くしていくためには住民の声がうまく反映される仕組みが重要で、その仕組みがあっても住民に知られていなければ意味がないし、うまく使ってもらい要望を拾い上げる努力も必要不可欠です。

対談を目の前で聞きながら、マンションに暮らす人々の声をどうやって行政に伝えようかと何年も努力し続けてきたお二人の凄さに圧倒され、改めてマンションの管理組合や自治会には優れたリーダーの存在がどれほど大切かがわかりました。

お二人の対談をご覧いただき、皆さまはどのように感じましたでしょうか。これが「自分の街をもっと良い街にしていきたいな」と考える良いきっかけになれば嬉しいです。

歴史の浅い地域ではありますが、住めばそこが地元になり、生まれた子どもはそこが故郷になるのです。

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