ドローンと言って、まず思い浮かぶのが上空からの空撮映像ではないでしょうか。観光地の美しい景色をドローンを使って気軽に撮れるようになりました。
ただ、近年では観光分野での撮影というよりも、防災や災害救助、建物の点検、物流といった、観光映像以外の用途でドローン操縦士が不足しているようです。
そのようななか、ハミングバードは「ドローンスクールジャパンお台場ヴィーナスフォート校」を青海のヴィーナスフォート2階にオープン。
2018年12月5日に行われた開校式では、ドローンの飛行デモや操縦体験、静岡県焼津市の地域防災課による災害現場でのドローン活用事例などを見ることができました。
日本初の商業施設連携型ドローンスクール
「ドローンスクールジャパンお台場ヴィーナスフォート校」はその名のとおり、ドローン操縦士を育成します。
日本初の商業施設連携型ドローンスクールということで、風や雨などの天候に左右されないことや仕事帰りでも利用できる夜22時までのカリキュラムを提供できるのが特長。
ショッピングのついでにドローンの講習を受けたり、湾岸エリアの居住者がよりドローンに触れられる場所となっています。
一般社団法人ドローン操縦士協会(DPA)の認定校とあって、終了者はDPA認定資格を取得することが可能です。
運営するハミングバード代表取締役の鈴木伸彦氏は
「都心型ドローンスクールが開校できた。未来に向けて、ドローンの認知が広がるきっかけになる。未来都市であるお台場から、日本や世界にコンテンツを発信していきたい」
と語り、ヴィーナスフォートの買い物時に一般客が立ち寄れる場所であることから、より身近に感じられるスクールであることを強調。
また、一般社団法人ドローン操縦士協会(DPA)の吉野氏は
「インストラクターの質が高いと聞いているハミングバードさんがここにスクールをオープンしたことを嬉しく思います。農業、建設、防災の場で活躍するドローンの未来に期待したい」
とドローンスクールジャパンお台場ヴィーナスフォート校の開校を喜んでいる様子でした。
ドローン操縦士でインストラクターの三浦氏は
「撮影や点検といった仕事の現場に出る前にここで体験できる。雑な練習だと本番のときに失敗してしまう。インストラクターは現場で培った経験を受講生たちに教えられる場がこのスクール」
と言い、優秀な操縦士になるにはしっかり学ぶ必要を強調しました。
焼津市は災害現場でドローンを活用中
筆者が驚いたのは、実際にドローンを災害現場や防災・救助で役立てているという静岡県焼津市の存在です。
焼津市地域防災課の鳥澤氏が紹介した防災航空隊「ブルーシーガルズ」の活動内容にビックリしました。
焼津市がドローンを導入したきっかけは、2015年7月の道路盤崩壊。
土砂の様子など崩落現場の状況把握が難しく、自治会長が「ドローンのようなものがあれば上空から把握できるのになぁ」と言い、それを聞いてた市長が導入を決定したんだとか。
ドローン大手DJI社の「Inspire 1」を1機購入したところ、防災や災害現場での活動を後押ししたいと言ってDJIがそのほかに1機を寄贈。その後も購入を進め、現在所有してるのは5機。すべてDJI製品だそうです。
さらに、焼津市とDJI JAPAN、アルマダス(映像制作や講習の団体)で協定を締結。8機の貸与機を含めて、現在、焼津市は全部で13機のドローンを持っています。
実際の活動事例
防災航空隊ブルーシーガルズがドローンを活用している事例を紹介しますね。
たとえば、火災現場。消火活動にあたる消防隊員は常に危険と隣り合わせです。
そこでドローンを使えば炎に近づかなくても炎の様子や建物の状況を把握できるうえ、消防隊員の行動も上空のドローンで確認できます。
なかなか火種の発見まで時間がかかったものが、「ドローンに搭載したカメラでズームすれば発見しやすい」と鳥澤氏は言います。放水ホースの展開場所も上空から見て判断できるわけです。
他方で、水難救助では、溺れている人をドローンで場所を把握し、もう1台のドローンで浮き輪を届ける訓練も実施。
さらに、夜間では赤外線カメラでどう映るのかも訓練しているんだそうです。
動画を撮るのがドローンの良さだと思っていましたが、これらのお話を聞いて、実は災害現場での活躍が最も期待できるのがドローンなのではないかと感じました。
ブルーシーガルズが活動しやすいワケ
焼津市防災航空隊ブルーシーガルズの組織図がこちら。
第2小隊長がDJIインストラクターを兼任し、操縦士の育成を行っています。
通常は民間がインストラクターをやりますが、焼津市は全国で自治体初の講習団体に。知識と技能を兼ね備えた操縦士を育成しているそうです。
さらに、それまで「水防車」としていた車両を、万が一の際にいち早く現場へ行けるよう、緊急走行が可能な「消防車」へ指定を変更。また、空から見たときに隊を確認できるよう、車両には対空表示をつけています。
どうして焼津市はこんなにスムーズにドローンを導入できたのかというと、防災課が消防署と同じ建物で一緒になって活動してること大きな要因になっているそうです。消防署がドローンへ関心を持っていたことも後押し。
素人目からして、他の部局が連携するのはなかなか難しそうですけど、それがうまくいってる焼津市は素晴らしいなと感じました。
撮影以外の用途が実は多い
水難救助で浮き輪を落とす訓練では、一般市販品のドローンでも救助に活用できることを証明。
1機目のドローンで要救助者を発見、2機目のドローンが浮き輪を届けて落とします。ドローンが備えている自動追尾機能も救助活動にはぴったりなんだとか。
実際に、海外ではオーストラリアで世界初のドローンによる水難救助がニュースにもなっています。
強風によってホールの屋根が剥がれてしまった例では、屋根の全てが剥がれてるという通報があり、ドローンで確認してみたら、剥がれているのは半分だけだとわかりました。
上空から屋根の横を見れたことで、屋根のめくれ方の詳細まで調査が可能に。当初、修繕には8000万円かかると言われたところ、調査のおかげで全面を直す必要がなくなり、修繕費が安く済みました。
また、北浜通建物火災の例では、消防隊員の活動内容を上空から見てリアルタイムに通知。建物内部から放水する際には、他の隊員に外から放水するのを止めて待機するよう指示。これもドローンで把握できたからだと言います。
そのほか、道路、河川、資産管理、農政、観光、広報など、ドローンにはさまざまな活用法があります。資産管理は施設の損耗を確認するのに使います。農政では獣害対策としてイノシシや猿の発見に役立つそうです。
買い替えコストや操縦士の育成が課題
ただ課題もいくつかあります。それはドローンの製品開発のスピードが早く、2〜3年でモデルチェンジしてしまい、バッテリーの形状が変わったりサポートが終わるリスクがあることです。
買い換えれば当然その分のコストがかかりますから、ある程度の負担になります。
通常のドローンは雨では飛ばせません。悪天候下で飛ばせるドローンは産業用の機体しかなく、それだと1機あたり500万円とかなり高額に。けっこう高いんですね。。。
さらに、運用面での課題もあります。防災航空隊ブルーシーガルズの活動は通常業務をしながら行っているので、操縦士の育成がなかなか進みません。また、人事異動で関係ない部署に配属されてしまうのも懸念材料に。
また、ドローンを飛ばす際には他の航空機や無人機とのニアミスや衝突を防ぐための協議が必要と言います。加えて、防災以外のニーズが増えていて、ドローンを管理している防災部局の負担が増加していることも悩みのタネだそうです。
最後に、防災航空隊ブルーシーガルズがドローンを導入して感じたことを教えてくれました。
ドローンは現場での情報収集活動がメインであって、ドローンを導入する際には使用する現場を想定して導入を決めるべきだ、と言います。わざわざオーダー品(特注品)を購入するのではなく、一般市販品を使いこなせば現場で十分使えるとのこと。
各地の安全を守るドローン操縦士
今回、焼津市のお話を聞いて、ドローンは災害現場でもっと活用すべきだと感じました。
なんでもドローンに頼るのはいけませんが、導入することによってこれまで不可能だった救助や対処が可能になります。
災害時により迅速に対応できれば、被害は少なくて済むのは当然です。ドローンの活躍は最終的に私たち一般市民にとってプラスになるでしょう。
そのためには優秀なパイロットの育成が必要不可欠。
ドローンの操縦をゼロから指導し、さまざまな現場で活躍できる操縦士を育てる拠点として湾岸エリアに誕生した「ドローンスクールジャパンお台場ヴィーナスフォート校」にぜひ期待したいところです。