生活

コンビニで焼き魚が買える背景にある漁業の衰退と、日本初のサスティナブル・シーフード発信地に豊洲が選ばれた理由

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おいしい魚が日本の海から消えています。漁獲高の減少は漁業関係者であれば毎日の仕事のなかで当たり前に感じられるものの、私たち消費者は魚の減っている現実を目の当たりにする機会はなかなかありません。

ただ、このところ居酒屋で出てくるホッケが小さくなったとか、魚の価格が上がってるとか、水産物を巡る何らかの変化を感じる場面はあるのではないでしょうか。日本の水産資源は実は消費者の知らないところで大ピンチなんです。なかでも、サバを巡る状況を知った筆者はその驚きを隠せません。

 

 

サスティナブル・シーフードを広めるプロジェクトが発足

限られた海洋資源を有効活用する手段のひとつであり、魚を獲りすぎず、環境を傷つけない方法で獲った水産物を「サスティナブル・シーフード」と言います。決して、食べてはいけないというものではなく、いわゆる、持続可能な水産資源のことです。

しかし、残念なことにサスティナブル・シーフードは日本に存在しません。このままでは日本で獲れる魚はいなくなってしまい、寿司や天ぷらなど私たち日本人のアイデンティティである和食が食べられない日が訪れるかもしれません。大きいホッケが獲れない、魚の値段が上がった、はそんな危険信号のひとつです。

そのようななか、サスティナブル・シーフードを広めようというプロジェクトがここ東京・豊洲で発足しました。

マグロ仲卸・鈴与の三代目でサスティナブル・シーフードに詳しい生田よしかつさんが発起人となり、東京中央卸売市場関係者、豊洲住民、大学関係者が豊洲に集結。2018年5月28日に開催された第1回勉強会では日本の漁業に関する実に衝撃的な事実と、海外の先進的な資源保護の様子を知ることができました。

豊洲の住民であり豊洲の魅力を発信する者として勉強会に参加した筆者は当日のもようを事細かくレポートします。

サスティナブルとは具体的にどんなものなのか、また、どうして豊洲がサスティナブル・シーフードを発信するのに相応しい場所なのか。

これが実現すれば日本で初めてのサスティナブル・シーフード・シティーが誕生するとあって、非常にワクワクする内容でした。ひとりでも多くの皆さんにこのプロジェクトを知っていただきたいと願っています。

 

 

消費者の気づかないところで魚は確実に減っている

東京海洋大学の勝川俊雄准教授はホッケを例に挙げ、「ここ何年かはお皿からはみ出るくらい大きなホッケを食べる機会が減っている」と指摘。漁師が船を出してもホッケが獲れないので、船を出さずに自主休業していると。

北海道産の真ホッケはほとんど獲れなくなっているのに、コンビニでは普通にホッケが並んでる不思議な光景を紹介。

「今居酒屋やコンビニなどで売られているホッケは北海道の大きな真ホッケではなく、アラスカ産の縞ホッケが多い。しかし、アラスカのホッケが多い理由の背景に、アラスカで実施している漁獲規制がある」と言います。

漁獲規制があるのにホッケが多い?どういうことなのでしょうか。その理由の前に、意識調査の結果も見ておきましょう。

勝川先生が会場で見せたアンケート結果には、漁業者は水産資源が減少しているとほとんどの人が答えた一方で、消費者側のアンケートの結果は水産資源が減少していると答えた人は6割くらいにとどまっていました。要するに、消費者の4割は魚が減っていることに気づいていないと言うのです。

 

思えば、1970年代までは排他的経済水域(EEZ)がなく世界中で魚を取り放題だったため、それと比べたら今の漁獲高が少ないのは当然といえます。漁獲高が減れば漁業は衰え、漁師さんの生活が脅かされます。

ところが、世界の先進国の例を見ると、先進国で漁業が衰退しているのは日本くらい。では、漁業が成長している国はどんなことをやっているんでしょうか。

 

 

大きなサバが獲れる!漁獲規制で漁師が喜ぶノルウェー

勝川先生は漁獲量が伸びている北欧のノルウェーの例を挙げました。

「ノルウェーは豪華客船のような船で漁に行き、ボタンを押せば自動で網が出て、ほとんど人手をかけずに漁ができる。なので、運動不足にならないよう船内にスポーツジムを作ってるくらい。そんなノルウェーはサバを獲って、日本に売って儲かって仕方がない」

もう、日本とノルウェーで漁業のイメージがまったく異なるんですね。ノルウェーは人口が少なく、国内消費が少ないため多くを輸出に回せるため、水産物の輸出が伸びています。ノルウェーは産油国でもありますが、最も成長しているのが漁業。

原油資源には限りがある一方で、水産資源は乱獲せずにきちんと管理すれば獲り続けられます。それも、大きなサバが獲れるんです。もちろん養殖もありますが、天然魚が増えています。それこそが成長のカギ。

なぜ、ノルウェーでは大きなサバが獲れるのか。それは1970年代の乱獲でサバが大幅に減少するという危機を受け、漁業の方針を大きく転換したことにあります。漁獲枠を設けて魚を残し、ほどほどに獲って高く売る漁業へと舵を切ったことが理由です

漁獲規制のおかげで残されたサバはそのまま海で大きく成長でき、ノルウェーなどヨーロッパでは大きいサバを持続的に獲ることが可能になりました。数年後に獲る際にはより大物になり、高く売ることができます

先ほどのアラスカのホッケも実は漁獲規制のおかげ。きちんと漁獲枠の範囲内で獲って、また次に獲れるよう一定量のホッケを海に残しているから、不漁にならずに日本へ輸出できるくらいのホッケを確保でき、かつ十分な価格のつく大きさサイズが獲れるんです。

つまり、規制による資源管理と価値の創出。サスティナブル・シーフードのお手本がここにあります。

 

 

日本はサスティナブルの意識が最低レベル

1970年代のEEZ時代に入って持続可能な漁業へと転換に成功したノルウェーとは裏腹に、日本はまったく方向性を変えませんでした。

漁業政策は各国でこんなにも違いがあります。

驚いたことに、日本では2歳にも満たない小さなサバをガンガンに獲り、それらをどうするかというと、食用には回さずに養殖用の餌になっています。人が食べない小型のサバを獲り続けているんです。あまりにもビックリしましたが、それが事実なんだそうです。

「小さくても獲らないと我々は生活していけない」

それが漁師の言い分でした。

仮に「大きく育つまで待ってから獲りましょう」なんて正義感を示した漁師はみんなから淘汰され、早いもの勝ち・獲ったもの勝ちの乱獲競争に取り残されてしまいます。

 

さらに驚いたのは、もう日本近海では大きなサバが獲れませんから、日本では自分たちの食卓用にわざわざ3歳以上のサバをヨーロッパから輸入している状況。

前述のとおり、ノルウェーは漁獲規制のおかげで価値のある大きな魚が持続的に獲れる。漁師は十分に儲けることができているし、それが漁業の成長している背景です。

ノルウェーのサバは1kgあたり278円と高く、一方で日本のサバは1kg62円にしかなりません(資料の数字)。日本へ4倍以上の価格で販売するノルウェーはそりゃ豪華客船で漁にでかけられるわけですね。

かつてはお魚天国だった日本。日本近海に親サバがいない今、成長するのを待たずに子サバを乱獲し、小さなサバなので安く売るしかない。それも獲れなくなります。漁師は生活できず、漁村は衰退。誰がどう見ても負のループに陥っています。

下のグラフの赤い線が親サバの量です。日本にはほとんど親がいません。

勝川先生は「個々の漁師が悪いのではなく、しっかりした漁獲規制がないのが問題」と指摘します。

魚が獲れないのは決して地球温暖化など外部要因ではなく、世界に比べて日本人の水産資源の保護に対する意識の低さが招いた結果です。ちゃんと魚が育つよう漁獲高を制限しなくてはなりません。

水産資源を守るためには消費者の努力が必要です。「日本で獲れないなら海外の魚を食べればいいじゃん」という考え方は捨て、しっかりルールを守って獲られた魚を選ぶようにしよう、と私たち消費者も意識を変えていかないといけないのです。

そのキーワードこそが「サスティナブル・シーフード」。

繰り返しますが、サスティナブル・シーフードとは持続的な水産資源のことです。乱獲ではなく決められた漁獲枠のなかで獲られた魚がそれで、消費者はサスティナブル・シーフードを選ぶことで水産資源の保護に貢献することができます。

 

 

サスティナブル化に成功した他の先進国の事例

具体的にサスティナブル・シーフードの普及に成功している国はどのようなアクションを行っているのでしょうか。株式会社シーフードレガシー代表取締役社長の花岡和佳男さんから詳しく教えていただきました。

花岡さんはサスティナブル・シーフードを広める活動しています。魚を獲らない・食べないが目的ではなく、いつまでも水産物を食べられる豊かな海の持続を目指す。それがサスティナブル・シーフードであると言います。

日本では馴染みが薄いサスティナブル・シーフードですが、欧米では当たり前で、「当スーパーで売ってる商品はすべてサスティナブルですよ」と堂々と言っているくらい浸透しています。

 

2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピックではプランの立ち上げ開始から持続可能性をテーマにし、最もサステナビリティに配慮したオリンピックとなりました。

例えば、ロンドン五輪組織委員会は会期中に提供する1,400万食もの食事について食材調達方針(Food Vision)に記載し、シンプルでわかりやすくルールを作成。

①資源が枯渇しているものは取り除く(Exclude the worst)
②環境に良いものを推奨(Promote the best)
③その他は改善していくこと(Improve the rest)

※参考:シーフードレガシーより

 

これにはロンドン市長が一番に賛同し、積極的に活動を推進したという背景があります。その結果、多くの企業や団体が手を挙げ、ロンドン五輪後も街・国にレガシーとしてサスティナブルを残すことに成功。五輪をきっかけにサスティナブル・シーフードへと切り替えた食品卸売企業もあり、ロンドン市長の強いリーダーシップと明確なメッセージが人々の意識を変えました。

日本も2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックを利用し、サスティナブル・シーフードを浸透させるのは可能だと思います。

東京五輪は“レガシー”がキーワードとして独り歩きしている感が強いですが、2020年以降に何を残すかを考えたときに、水産資源の危機を考慮してぜひサスティナブル・シーフードを導入してほしいですね。

 

もうひとつ海外の例を挙げると、モントレーベイ水族館を開放しサスティナブル・シーフードの食事会を実施している米国・カリフォルニア州では、“カッコ良い”とか“オシャレ”という感覚でサスティナブルに対するムーブメントが起こっているそうです。

そして、サスティナブル・シーフードを販売するレストランの密集しているのが沿岸部なんだとか。

花岡さんは「海のある豊洲でレストランがサスティナブルを発信することは大きな意味があるし、カッコ良いを発信するのにピッタリの場所」と、サスティナブル・シーフードを広める拠点として豊洲を選んだことを高く評価しました。

 

 

日本でも一部店舗で見られる「MSC」などの認証ラベル

では、どんなものがサスティナブル・シーフードなのか。一番シンプルな見分け方は、魚のパックや加工品の商品に青い「MSC」のラベルが貼られているかどうかです。

→ MSC(Marine Stewardship Council)

世の中には凄まじい数のエコラベルが存在しますが、「MSC」は世界で最も知られているエコラベル。持続可能な漁業で獲られた水産物を認証しています。厳格で科学的な基準で照らし合わせすべての流通経路を審査したうえで与える認証のため、認証を受けた漁業業者は消費者から信頼されます。

また、養殖の水産物を認証する「ASC」もあるほか、MSCまで達していないが、サスティナブルを目指して評価つけをする「FIP/AIP」というもあります。

イオンや西友、COOP、IKEAでは販売されている一部の商品はMSCやASCの認証を受けた海外産のサスティナブル・シーフードを買うことができます。また、東京・世田谷にある日本初のサスティナブルシーフードレストラン「BLUE」でもいただくことが可能です。

ただ、残念なことに日本ではサスティナブル・シーフードに基づいた漁業そのものは行われていません。世界におけるサスティナブル・シーフードの普及を見てわかったとおり、このままでは日本の漁業は力を失うばかりです。

ちなみに、日本で一番大きなサスティナブルイベント「東京サスティナブル・シーフード・シンポジウム2018」が2018年11月1日に開催予定。今回で4回目となるそうで、興味を持った方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

 

日本の食文化を残すためにサスティナブル・シーフードは必要

最近、「SDGs」というキーワードをよく耳にします。SDGsはSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)といい、2015年9月の国連サミットで採択された2030年までに達成すべき17の国際目標のことで、その14番めの目標に「海の豊かさを守ろう」があります。中身はこうです。

“海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する”。

 

これは193の国連加盟国が国連サミットで決定した世界的な目標です。将来を考えて水産物の漁獲規制を行い、魚を保護しなければ日本の漁業に未来はありません。

もし仮に、2030年に日本が目標を達成できなかったとしたら、これまで日本人の築いてきた食文化を素晴らしいと感じる人ははたして世界にどれくらいいるでしょうか。

訪日外国人旅行者の多くは日本食を楽しみにやってきます。しかし、寿司や刺し身など和食、そのほか魚を使った和洋中すべての料理で出される魚が実はサスティナブルではないと知ったら。。。きっとガッカリしますよね。お客さんが喜んでくれない。それは寿司職人や料理人にとって大事件です。

もはやサスティナブル・シーフードを進めるのは待ったなしの状況と言えます。

 

 

豊洲からサスティナブル・シーフードを

2017年4月。スウェーデンのヴィクトリア皇太子が築地市場を訪れました。なぜ、次期国王が築地市場を訪れたのかというと、実はサスティナブル・シーフードの視察。そこで築地で最もサスティナブルに詳しい生田さんが現場を案内しました。

スウェーデンは2017年に「サスティナブル国際ランキング」第1位となりました(SDG Index 2016)。すべてにおいて持続可能な開発を行っている世界のお手本となる国です。

ただ、築地市場を訪れ、日本のサスティナブル・シーフードに対する意識の低さを知ったヴィクトリアさんはガッカリしたのではないでしょうか。それを説明する生田さんも複雑な心境だったはずです。

 

2018年10月11日に築地から市場が移転し、豊洲市場がオープンします。ところが、土壌汚染に端を発する風評被害は未だに続き、課題のひとつとなっています。

仲卸の生田さんは「安心安全を訴え続けるパフォーマンスは逆に不安視する人をまた呼び起こしてしまうことになりかねない」と懸念し、大局的に街づくりを行うことで風評被害を払拭していく考えを提案。

 

世界一の魚市場を持つ豊洲が日本初のサスティナブル・シーフードのランドマークとなり、大消費地東京の中から水産資源の大切さを発信していくーー

 

それが『〜豊洲からサスティナブル・シーフードを〜 豊洲街づくり宣言』です。

 

 

市場・地域・人・店・大学などが一体となって知識を深める

今回スタートした、世界一の魚市場のある豊洲からサスティナブル・シーフードを広めようとというプロジェクトは豊洲住民である筆者も大きく心を動かされました。

おいしい魚をいつまでも食べられるようにする。その実現のためには漁業関係者だけでなく、消費者、飲食店、小売店などの意識改革が必要です。実際にさまざまな体験や教育を通じて、人々にサスティナブル・シーフードを知ってもらう活動が必須となります。

生田さんが具体案として挙げたのが、子どもたちを対象にしたお魚教室。わかめや海苔の養殖をやって子どもに収穫させ、持続可能の意味を身をもって体験してもらう。また、飲食店やスーパーと連携し、賛同してくれたお店にサスティナブル・シーフードを提供するなどです。

サスティナブルの普及している海外への研修ツアーを実施し、他地域の成功事例を学ぶのもひとつの案。子どもの多い豊洲エリアの特徴を活かし、海外ホームステイも考えているそうです。現地でサスティナブルの環境こそが当たり前という体験すれば日本のおかしさに気づき、サスティナブルに積極的に取り組んでくれる若者が育ちます。

 

 

日本の魚を守る!

漁獲高が減り、魚の売上が減り、生活できないという漁業関係者の方はぜひサスティナブル・シーフードのことを調べてみると良いでしょう。なぜ、ノルウェーは漁業を成長産業に伸ばすことができたのか。どうして大きいサバが獲れるようになり、日本よりも4倍も高値で売れているのかがわかるはずです。

日本のサスティナブル・シーフードは世界から完全に出遅れています。ゼロ。これは誰が悪いとかではなく、みんなで一緒に意識を変えてやっていこうゼという場面なのです。

勝川先生は

「魚のプロだけでなく、せっかく住民も多くいる豊洲なので、魚の知識を深めて街全体でまとまって豊洲を魚食文化都市にしたら面白いんじゃないか。業者だけでなく消費者へも非常に面白い場ができあがる。それが持続性につながる。また、持続性というキーワードでロンドンやモントレーなど国際的なつながりができる。市場と地元住民とで盛り上がっていきたい」

といい、豊洲を魚食文化都市にしていく考えを示しました。

 

豊洲と同じ江東区内にある東京海洋大学・越中島キャンパスで水辺での街づくりの仕組みを担当している川名優孝准教授のお話からも、豊洲でのサスティナブルの可能性は大いにあることを確認できました。

日本の職人技が光る研磨・刃物といえば北陸。日本一の星空で有名な長野県阿智村。といったように、“豊洲といえばサスティナブル・シーフード”とみんなに思い浮かべてもらえる街になる。どこもやってないことをやる。ライバルはゼロです。

サスティナブル・シーフード・シティー豊洲は今、実現に向けて第一歩を踏み出しました。そして、それは日本の魚を守る大きな一歩となるのです。

 

→ 複数管理人による「サスティナブルシーフードシティ豊洲」Facebookページを立ち上げました

 

【サスティナブル・シーフードまとめ】
①漁獲規制をして漁獲枠を設け、魚の数が復活するのを待つ
②漁師は決まった漁獲枠のなかで魚を獲り、現状の小型・大量ではなく大型・少量の価値ある魚を売っていく
③市場でサスティナブルの魚を取り扱い、小売店・飲食店への販売を行う
④スーパーやレストランはサスティナブル商品・料理を消費者に提供する
⑤サスティナブル・シーフードを選択したすべての人は魚の保護に貢献できる

 

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