江東区では、ゼロメートル地帯の城東地区・深川地区にお住まいの人が洪水の被害に遭わないよう、どうやって安全な豊洲など臨海部まで迅速に移動させるかが課題となっています。
区の北部・中部に存在する海抜の低い土地から南の高い土地への垂直避難を基本的な考えとし、産学官民共同でさまざまな対策を練っているところです。
関東大震災からちょうど100年が経った2023年9月1日(金)、豊洲スマートシティ推進協議会のメンバーである清水建設は西大島駅前からバスを使った避難訓練を実施。
避難先が豊洲ということで、とよすともこの訓練に同行させていただきました。
水害リスクのある江東区、台風が最接近する前に臨海部に避難へ
江東区は東雲に45台のバスを保有する大新東株式会社と2022年12月に災害時協力協定を締結しています。
もしものときには最大45台のバスを何度もピストン輸送し、ゼロメートル地帯から要介護者をはじめとする避難行動要支援者をバスで輸送する計画です。
今回の避難訓練では、西大島駅前から臨海部・ミチノテラス豊洲に向けて、実際に大新東のバスを使った移動が行われました。
台風の影響で荒川の氾濫危険性が高まっているなか台風が最接近する48時間前に江東区が危険地域に避難を指示した、という設定です。
バスでの避難を必要としている人を48時間以内に輸送できるのか。所要時間はどのくらいかかるのでしょうか。
実際にバスで避難してみた結果
避難訓練のスタート地点は、江東区の都営新宿線・西大島駅から。すぐ近くの巨大団地には多くの高齢者さんが住まれています。
この団地は大島・北砂団地一帯の避難場所に指定されていて、もしものときには団地が避難の拠点に。
洪水のリスクが高まった場合は、バスでの移動を必要としている避難行動要支援者を乗せて豊洲など臨海部へと避難することになります。
10時13分、西大島駅前を出発。スタッフがストップウォッチで実際の所要時間を計測します。
10時26分には木場駅を通過しました。このまでの所要時間は13分ほど。
三ツ目通りがやや渋滞していましたが、10時35分には豊洲駅の交差点に。
そして、新豊洲に入り、10時40分にミチノテラス豊洲に到着しました。
所要時間は27分。
平均時速は16km/hくらいだったようです。
江東区城東地区・深川地区の11ヵ所ある避難場所からバスでの移動を必要としている避難行動要支援者は約30,000人。
この結果から計算すると、45台のバスを使ってだいたい37時間ほどで全員の避難が完了できます。
事前に量子コンピュータが弾き出した予想所要時間は37時10分だったので、ほぼ想定内と言えそうです。
もちろん、災害時にはいろいろな想定外の出来事がありますからうまくいかないかもしれませんが、48時間前に避難を始めれば台風が最も接近する前に豊洲へ避難できる可能性が高いことはわかりました。
そもそも、どうして西大島から豊洲へ避難しなければならないのか。それを説明しますね。
今住んでいる地域は海抜何m?
みなさんはご自身のお住まいの地域が海抜何mの高さかご存知でしょうか。
今朝、筆者が避難訓練の取材で西大島駅に訪れると、こんな表記を見かけました。
なんと、西大島駅の出入口は海抜-0.8mです。
西大島駅からすぐ近くにある団地は大島・北砂団地一帯の避難場所に指定されているものの土地が海水面よりも低いゼロメートル地帯にあるため、洪水や高潮が発生したときにはこの避難場所すらも危険に晒されます。
一方で、豊洲は場所によって差がありますが、たとえば豊洲公園・豊洲ぐるり公園は海抜5.4mあります。
西大島:海抜-0.8m
豊洲:海抜5.4m
台風で川の水かさが増したとき、どっちが危険か、どこへ避難すべきか、この数字で一目瞭然です。
今回の取材レポートで一番言いたいことは、
「どうして住んでる地域から避難しなきゃいけないの?」と疑問に思ったら、この数値を思い出してください。
高い方へ避難すれば命が助かります。大切な人を守れます。
避難訓練とは別の日に撮った写真ですが、上は新豊洲の様子です。ご覧いただきたいのは運河の水面と陸の高さ。
写真のとおり土地全体が盛られているため非常に高さがあります。
ハザードマップで示されているように豊洲エリアの洪水リスクはほぼゼロ。しっかり避難先に指定されているほどです(洪水ではなく高潮の場合には一部リスクが存在します)。
一時滞在が可能でトイレも使えるミチノテラス豊洲
訓練での避難先は「ミチノテラス豊洲」。
2022年に開業した、オフィスビルでありながら交通・防災の拠点としての機能を備える複合施設です。
西大島のみなさんと共に、防災備蓄や設備を見学しました。
避難者や帰宅困難者が安心して過ごせるよう、バスの待合室として利用している1階のスペースを緊急時には一時滞在スペースとして開放します。食糧や水、マスク、毛布など防災備蓄もあります。
水道が止まって通常のトイレが使用不要になっても使える「マンホールトイレ」も見学しました。
使い慣れた形の便座に、ペーパーホルダー、背もたれ、手すりも完備。目隠しになるテントはファスナーで開け閉めできます。
内側から「使用中」の札をマジックテープで貼ると外から見えず、貼っていないときには外から確認できる仕組み。
また、避難先にトイレの設置数が少ないと長い行列ができますし、どうしてもトイレに行くのを我慢しがちです。
すると、あまり水を飲まないとか、食事を控えるなど、健康面や気持ちの面でも悪化につながります。
安心してトイレに行けるのであれば、水や食事を控える必要がなくストレスも軽減するでしょう。マンホールトイレの存在は避難民の強い味方になるんです!
万が一の際にはたくさんの人が避難して使用するでしょうから、ぜひとも各地の避難所にはたくさんのマンホールトイレを準備してほしいところですね。
こちらは仮の画面ですが、災害の被害状況、鉄道や道路といった交通網の状況、エリア内の避難所案内や満空情報などを、ミチノテラス豊洲に常時設置されている大きいサイネージや柱のサイネージで配信も行われる予定です。
そして、食糧があることも避難先に求められる大切な要素。
いつもはミチノテラス豊洲で働く人や観光客などに向けておいしい料理を提供している200事業者超のさまざまなフードトラックが災害時の炊き出しに賛同しており、避難した人々に温かい食事を提供します。
避難訓練時には2種類のフードトラックがあり、ここではおかずがたっぷり入った豚しゃぶのお弁当をいただきました。
2023年版「明日の危機」9月30日まで展示
ということで、バスでの避難訓練に参加して普段とは違う角度から防災を考える機会となりました。
ミチノテラス豊洲で初めてマンホールトイレを見られたのも良い経験になりましたし、なにより豊洲の地域情報を発信する身としては、豊洲が災害に強い街であることを再認識できたのは嬉しかったです。
そして、昨年も開催して読者の皆さまから好評だった、災害時の貴重な写真と今後の課題解決に向けた対策や研究などの展示イベント「明日の危機 〜関東大震災100年〜 産学官民における交通防災拠点整備と広域地域連携」が本日2023年9月1日より開催しています。
※金土日のみ開催
関東大震災直後には駅が大混雑したとか、救援物資の輸送に臨海部の舟運が大いに役立ったとか、実際に火災の被害(半焼・全焼)が多かった地域など、さまざまな写真やデータの展示があって、つい食い入るように見てしまいました。
ここで学べることも多いと思いますので、興味がある方はゆりかもめ市場前駅すぐ隣にあるミチノテラス豊洲のミチラボにぜひ足を運んでみてくださいね!
【明日の危機 〜関東大震災100年〜】
■期間:9月1日(金)~9月30日(土)
※金土日のみ開催
■時間:10時~16時
■料金:無料
■場所:東京都江東区豊洲6丁目 メブクス豊洲2F「ミチラボ」